「聴く力を活かして社会貢献」松本亜樹子さん
「聴く力」を活かして社会貢献!~相手が一歩踏み出せる対話のポイント~ 実施報告
復職後のママも参加できるママボノとしてスタートした「ママボノNEXT」の一つである「NPOメンタリングプログラム」では、「聴く」を通したNPO等の支援を行います。その紹介イベントにて、NPO法人Fineの元代表/現理事でもあり企業やNPO等でコーチングの研修等を行う松本 亜樹子さんをお招きし、メンタリングとは何か、対話のポイントを伺いました。さらに、NPOメンタリングプログラムにメンターとして参加された経験者のトークを交えながら、プログラムのご紹介をしました。 |
スペシャルゲストトーク/松本 亜樹子さん
NPO法人Fine~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)のファウンダー/理事であり、人材育成トレーナーとして5つのコーチングの資格を取得され、コーチとしてもご活躍の松本亜樹子さんに、「メンタリング」について、社会貢献と絡めながらお話いただきました。
経験者トークセッション/NPOメンタリングプログラム メンター参加者
ママボノに参加経験があり、その後メンタリングプログラムに2度参加されたご経験についてお話いただきました。
経験者トークセッションのレポートはこちら
スペシャルゲストトークセッション
ゲスト紹介
松本 亜樹子さん
本名:杉嶋奈津子 一般社団法人日本支援対話学会 理事/NPO法人Fineファウンダー、Coach A.M 代表
アナウンサーとしての後進育成から人材育成に興味を持ち、企業における人材育成・研修等、活動の場を広げる。徹底した顧客視点を見込まれ、総合商社やIT企業の新規事業(顧客開拓)部門にアドバイザーとして参画。人材育成の手法としてコーチングに出会い、コミュニケーションのスキルのみならずあり方としてのコーチングを極めるべく、学びを深め、5つのコーチングの資格を取得する。コーチングの際には1on1でもグループセッションでも、必ずストレングス・ファインダーを使用。自己認識と他者理解が高まることでクライアントのセルフマネジメント力が高まり、目標達成を早めることを実感。米国Gallup社の認定コーチの資格を取得する。感情マネジメントのアンガーマネジメントコンサルタントの資格も持つ。
―人の話を聞く、人に聞いてもらうことの効果
私はNPO法人Fineの設立者であり、自身では生業としてコーチの仕事もしています。NPO法人Fineは妊活の当事者自ら支援する自助団体で、不妊治療中の方、不妊に悩む方のサポートをしています。2004年設立でちょうど20周年です。
まずは「メンタリング」ということ、「聴く」ことのパワーについてお話します。 それは、人に聞いてもらう、聞いてもらいながら自分の考えや思いを整理していくことが、まさにエネルギーチャージになるということなのです。
実は私も、コーチングを学ぶ以前はピンときていなかったのですが、最初に「傾聴」というスキルを学ぶことで気づいてきたんですね。傾聴というのはとにかく相手のために、自分に矢印を向けず、ただ一生懸命聴くということを練習します。そこで、それって実は日常生活でないことだと気づきました。そして、話す側になると、話している最中にどんどん自分の思考がクリアになってきて、自分の困っている点や引っかかり、自分が本当に成し遂げたいことを、ただ聴いてもらうだけで気づきをもたらされたという経験をしました。日常生活ではなかった、一生懸命人の話を聴く、聴いてもらうという特別な時間を持つ。それは話す方のエネルギーチャージに繋がることだと非常に実感しています。
―「人」に聞いてもらうことは行動への原動力になる
「オートクライン効果」という、自分が話した内容を自分で聞くことによって、自らの深い考えや思いに気づくことがあります。聴いてくれる人がいるからこその気づきというのが生まれるのです。聴いてくれる人がいるからこそ、自分で実現したいという意欲、行動力にさらに繋がっていくと思っています。
その気づきが行動に繋がるには、行動に繋がらない理由、また本当は何がしたいのかを一緒に考えてくれる、深堀してくれる相手がいてくれるということはとても大切です。自身の中で決めただけではなく、誰かと約束したことは力になる、そういうご経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
―「メンタリング」と「コーチング」の違いはアドバイス
「メンタリング」って平たく言うと、“先輩”みたいな立場の人にしてもらう感じです。企業の中でもメンター制度を設けているところがあり、ある社員に対して上司ではない方が先輩となる形で、一生懸命、一緒に考えたり、ときには一緒に手を動かしたりして背中を押す役になってくれます。伴走しながら歩みを進めることによって、成長を促していく、それがメンターというものだと思います。
そして「コーチング」と「メンタリング」は非常に似ていまして、手法としては、相手の気づきや自主性を聴いて引き出す、そこは共通していますね。では何が違うかというと、アドバイスが有るかないかということが大きいです。「コーチング」もアドバイスが全くないわけではありませんが、サジェスチョン程度です。一方で「メンタリング」は自分の体験からくるアドバイスを沢山することができます。そこが「メンタリング」の非常に良いところだと感じています。
―相手が一歩踏み出せる対話のポイントは動機づけ
今回イベントのテーマは「相手が一歩踏み出せる対話のポイント」とありますが、ポイントとなるのは、自主性、相手が本気でやる気になるかどうかです。
動機づけには正の(ポジティブな)動機づけと負の(ネガティブな)動機づけの両方があります。どちらに良し悪しがあるわけではありませんが、その時の状況や相手によって選んでいく、変えていくということが大事だと思います。
例えば相手に「この課題をクリアさえすれば次の段階に進めるんだよ。」と言われるのと、「この課題をクリアしないと次の段階に進めないんだよ。」と言われるのでは、ちょっとイメージが違ってきますよね。そのどちらを動機づけとして選ぶかは、相手のタイプを見極めることも必要になってくると思います。
さらに最後は背中を押してあげるために、はっきり「あなたは大丈夫」「あなたがやればできる」という言葉掛けで自信を持ってもらうのも大きなポイントになってくると思います。動機づけをしながら最後は背中を押し出すといった感じです。
背中を押される機会って、傾聴と同じく日常であまり機会がないです。自分に不足するところを指摘してもらうことは日常であるかもしれませんが、既にできているところ、足りているところを承認されたり褒めてもらったりするって機会ってなかなか少ないと思います。 特に日本人って本当に承認下手と言われていて、そういった評価は口に出さなくても伝わっているでしょ、と思われる方が多いんですね。言葉に出して伝えるというのが、コーチングスキル、コミュニケーションスキルでいうところの承認です。その方の良いところや既にできているところはきちんと伝えて、一つ自信をつけてまた積み重ねていく、そんなふうに段階的に積み重ねていかないとなかなか自信はつかないと思うので、承認というのは大事なポイントだと思います。
―NPOのリソース不足と孤独感に対するメンターの効果
私自身もNPOを運営していますが、とにかくNPOは「想い」を持って走っていますので、何もかもが足りないです。もう人もスキルも時間も足りない、四苦八苦しているところが多いです。でも「想い」だけはある。あふれるぐらいの「想い」がある。その「想い」を形にして何とか社会課題を解決していきたい一方で、「想い」ばかりが空回りしてしまって追いついていかないこともすごく多いですし、止まっている余裕はないんですよね。
必死で四六時中走って、走りながら進めていくという形なので、自分のことにしっかりと矢印を向けて考えることには至らないケースがすごく多いです。まず話を聞いてもらえる機会がないですし、皆が自分のことで精一杯なので、相談するのもままならないことも結構あります。
またそうしたNPOに新しいメンバーが入ると、嬉しくってあれこれ仕事を頼んでいくわけですが、その新しい方は相談相手がいない。そうして相談者がいないことで、想いがあって入った人も長く続かず辞めて、ということが私たちの団体でも続いていました。そこでどうしたら良いかと私はコーチングを学ぶに至って、コミュニケーションを変えていきました。しかしそうした解決ができずにいるNPOは、孤独感を抱えた人が、火の車のようにずっと走っていることが多いと思います。
私自身、団体設立当初は、メンバーの皆さんが各地離れた場所にいたことで大変な思いをしました。やり取りが全部テキストベースで、やらなければいけないこと、言われてることは目の前にあるんですが、どのようにしてやっていったらいいかわからない。リアルで会って質問する、聞くような場もない。今でこそリモートでのビデオ会議などは普通に行われますが、当時はそれがなく、相談しても全部テキストで返事が返ってくるので、温度感が伝わらない。孤独だし不安だった、本当にしんどかっただろうなと、申し訳なかったなと思います。
運営する方も相談する人がいなくて孤独ですし、弱音を吐けない辛さがあります。特に設立メンバーは、自分たちがもう駄目だと思ったら、他の皆もそうなってしまうと思うと、とにかくいつも何かに対して自分自身のモチベーションを上げて、「想い」を機能させ浸透させていくことが必要です。それをするエネルギーは、本当に常にカツカツみたいな感じで、なおかつ相談者がいない孤独感は苦しいと思います。
そんな時に相談できる方がいて、様々なアドバイスをしていただけるというのは、どれだけ心強いか!
メンター制度はやる気を促すことに繋がり、N P Oにとって大きな助けになるなと思います。ですので、メンターが関われる重要なポイントは、モチベーション、動機づけであり、大丈夫、足りていますよと言うことが、孤独を紛らわせたり運営者の背中を押したりすることにつながっていくと思います。
―メンターの「存在」そのものが力となる 〜参加をお考えの方へ〜
メンターは、もう本当にいてくださるだけでその存在が、NPOには心強いものです。NPOをやっていますと本当に助けてもらえる人が社会にいないなと、つい感じてしまいがちなんですね。プロボノでNPOに関わる方は業界が違うことやスキルがないことを不安に思う方もいらっしゃると思いますが、業界が違うからいいんです。スキルなんていらないんですよ。別業界の話を聞ける機会なんてないので、別の視点がなかなか手に入らない。話を聞いてもらって、今までと違うことをぱっとお話されるだけで、視界がぱっと開けるようなことって結構沢山ある。その存在が私達の力になります。
社会に、自分たちのNPOを助けてくれようとする人がいるんだって、まずはその存在だけでどれだけ心強いか。自信を持って皆さんにメンターとして参加していただきたいなと思います。皆さんのお力を必要としているNPOがいっぱいありますから、ぜひお力を貸していただけたらすごく嬉しいです。
「聴く力」を活かして社会貢献!~相手が一歩踏み出せる対話のポイント~
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この記事は、ママボノ経験者の森亜希さんに作成いただきました。