ママボノ10th Anniv. ー吉岡マコさん基調トーク
ママボノ 10th Anniversary 記念イベント実施報告
子育て中ならではの目線や経験を活かしたプロボノとして、そして育休・離職から復職へ向けたウォーミングアップの場として2013年度にスタートしたママボノ。これまでに、600名以上のママたちが参加し、100件のプロジェクトを実施しました。そして2022年、ママボノは10周年を迎え、これを記念したイベントを、2022年8月29日オンラインで実施しました。 |
<イベント内容>
基調トークセッション/吉岡マコさん
NPO法人シングルマザーズシスターフッド代表理事の吉岡マコさんをお迎えし、子育てもしながら長年マドレボニータで社会課題解決にチャレンジしてきたこと、また新たな挑戦となるNPO法人シングルマザーズシスターフッドの立ち上げへとつながった背景や想いについてお話しいただきました。
※本ページにてレポートを掲載
経験者トークセッション/ママボノ参加者
仕事から離れている時期にママボノに参加し、その後仕事で活躍をしたり、新たな活躍フィールドを見つけたママボノ経験者からも、ママボノがどのような経験だったのか、その後「自分らしく」展開していったキャリアについてお話しいただきました。
経験者トークセッションのレポートはこちら
基調トークセッション
登壇者紹介
吉岡マコさん
NPO法人シングルマザーズシスターフッド代表理事、認定NPO法人マドレボニータ創設者。1972年生まれ。
東京大学文学部で身体論を学び、96年卒業後、同大学院生命環境科学科で運動生理学などを学ぶ。
1998年に出産を経験し、出産後の心身の過酷さと、産後ケアのサービスや制度がないことを知り、同年9月にマドレボニータの活動の前身となる「産後ケア教室」を立ち上げる。2008年に活動をNPO法人化。2020年12月、22年続けたマドレボニータの活動を次世代に承継し、シングルマザーのセルフケアとエンパワメントの支援に専念するために、シングルマザーシスターフッドを立ち上げた。
著書に『産前・産後のからだ革命』『母になる女性のための産前のボディケア&エクササイズ』『みんなに必要な新しい仕事:東大卒25歳、無職のシングルマザー、マドレボニータを創業する』など。
―自己紹介をお願いいたします。
吉岡さん: 産前・産後の女性のヘルスケアを支援する、マドレボニータ(スペイン語で「美しい母」)という団体を創設し、その代表として活動してきましたが、代表職は2020年の12月にしりぞき、現在は、シングルマザーズシスターフッドという団体を立ち上げ、シングルマザーの方々の支援をしています。マドレボニータでは、卒業生の多くがママボノに参加しており、今回のイベントをご担当されているママボノスタッフの 津田さん も、私が代表を務めていた頃のマドレボニータの卒業生です。またマドレボニータ自体も、サービスグラントのプロボノを過去に活用させて頂いたという経緯もあり、今回お声がけ頂きました。本日はよろしくお願いいたします。
―産後女性の活用という点で、ママボノとマドレボニータ共催のイベントを以前実施させて頂いていました。改めて、マドレボニータの活動内容や、その背景について教えてください。
吉岡さん:マドレボニータ自体は歴史が古く、創設は24年前の、1998年になります。現在は、産後ケアの認知度も高まり、国の予算でも確保されるなどとなっていますが、創設当時は、「産後ケア」という言葉もなく、「産後うつ」という言葉もありませんでした。当時私は、大学院で運動生理学といった、身体に関する研究を行っており、心と体のつながりの研究をしていました。そのころ出産したのですが、これだけ体のことを研究していたにもかかわらず、産後の体がこれほどダメージを受け、体が回復しないと心もうつうつとするということを、実体験して初めて知りました。一方で、その回復方法や、そもそもそのようになるということを、事前に誰も教えてくれなかったことに大変驚き、「どうなっているんだ、この日本は!」と思ったのが、この24年前です。私自身、体の研究をするくらいでしたから、体や心が快適な状態で子育てをしたいと強く思い、その方法を探しました。しかし見つけられず、「じゃあ、ないなら作ろう!」となったことが、マドレボニータ創設のきっかけです。
―そのようなきっかけがあったとは言え、団体として立ち上げ、全国規模で運営されるにいたられたというのはすごいことだと思います。そこまで、やろう!と思えたのはなぜでしょうか?
吉岡さん: 最初はそこまで考えておらず、最初は世田谷区の小さなスペースで、まずは半径数十メートルの人が元気になればいい、位の感じで始めました。ですが続けていくうちに、「私もインストラクターをしてみたい」という方や、インターネットで発信していくうちに、「うちの地域にもこのようなものが必要です」など担い手になりたいという方が現れてきました。私1人では絶対に無理ですが、そのようにそれぞれの地域で行いたいという方が出てきて下さるのであれば、このプログラムを標準化し、インストラクターを養成して、やっていこうとなりました。最初から「全国に!」などとは全く考えておらず、ですので現場で勉強しながら、学びながらやってきた、というような感じになります。
―そのお仕事をされながら、おひとりでお子さんを育てるのは大変だったと思うのですが、どのようにして、対応していたのでしょうか?
吉岡さん:仕事をしながら子育てすることにおいては、パートナーがいないのは心細いですが、その分、色々な方に助けて頂きました。ですので、ワンオペといえども、出来るだけワンオペではない状況を、意図的に作ろうとしていました。実家の両親 などにも沢山助けてもらいましたし、血縁関係のない友達なども、とても助けてくれました。シングルマザーだったからこそ、色々な方に助けてもらうことができ、かえって良かったと思っています。また、実は現在はパートナーがいるのですが、パートナーがいる時といない時を比べると、やはり、いないときの方が仕事はしやすかったのかなと思います(笑)。現在のパートナーは、年を取ってからのパートナーなので、残されたパートナーとの時間を大切にしたいと思うと、時間を全部自由に使えるわけではありません。そういう点では、シングルだった頃の方が、仕事はしやすかったのかなと感じます。シングルの頃は、子どもに手はかかっていましたが、様々な方に力をお借りしていました。また、マドレボニータの活動をしていた時に、 パートナーに活動の賛同を得られず思ったように活動できないという方が意外と 多いと感じていました。これについてはバランス、良し悪しだなと感じますね。
―ママボノでも、復職後にプロボノ登録しても母親である自分は自由な時間が取りにくいという方もいらっしゃるので、まさにジェンダーギャップがあるゆえのお話だと思います。マドレボニータという団体として、プロボノ・ママボノにどのような印象を抱いたか、プロボノ経験がどのように映ったか、教えてください。
吉岡さん:マドレボニータでは、2006・2007年ごろに、サービスグラントさんにお世話になりました。その時は、パンフレット制作プロジェクトで、周辺のリサーチやヒアリングを大変していただきました。マドレボニータという団体では、そこまでのことを自力ではできなかったと思います。その上でどのようなパンフレットがよいかとご提案下さったのですが、第三者の目や手が入るというのは、心強く、本当に有効であったと思います。そして、育休中の方が、ママボノという形で社会と関わる活動をする機会を得るということについて、私自身「これは本当に良いアイディアだな!」と思いました。
理由として、女性は産後、消費を通じてしか、社会とつながる方法がなくなってしまうという期間を経験するんですね。母親になると、何かを生み出す人としてもあまり見てもらえないという面もあります。私自身、産後ケア教室を始めることを、自作のチラシを使って、子どものいない友人に伝えたところ、「(吉岡さんが)こういうのに参加するんだ」と言われ、「いやいや、私が立ち上げるんだよ」と言い直したことがありました。乳飲み子を抱えている人の姿を見ると、消費者としてしか見えないというバイアスはあると思いました。ですが子育て中の母親も、何かを生み出すことはできますし、何かを生み出す欲求もあると思います。とはいえ実際のところ、産後は体のダメージもあり、子育ても最初は大変ですし、とても弱りますよね。そうなると、社会とつながることがちょっと怖くなる。消費者としてしか、社会とつながれなくなるのはしょうがないのではと、弱気になってしまう時があると思います。マドレボニータの教室に来られる方も、最初はそのような感じなんですが、体を動かし、体力を取り戻し、また対話を通じて自分自身の言葉を取り戻すということによって、体力的にも、メンタル的にも、自分らしさが取り戻され、もう一度社会とつながりたいという欲求が出てくるのです。その時に、消費者としてしか見てもらえないというのは、非常にストレスだと思います。そこで、社会とつながれる機会として、「ママボノ」というものは、とてもよいチャンスだと思いますし、それが復職に向けてのトレーニングにもなるというのは、本当に素晴らしい取り組みだと思って拝見しています。
―そのようなお言葉を頂き、ママボノの運営に対して、大変自信になります。では、吉岡さんご自身が、日本で子育てをしながら働く女性について、他にどのような課題があると、マドレボニータの活動の中で感じましたか。
吉岡さん:本人、そして周囲の認識ともにですが、 全てを自分で担う ことを期待されてしまっていると思います。仕事もするが、家事も子育てもするといったような。ですが、そんなこと絶対に無理ですよね。でもそれが美徳とされているし、それをしようとしてしまう、というところもあるので、それは無理であるということを、女性本人だけではなく、周りにいるパートナーや、社会全体も、認識する必要があると思います。
例えば私たちは、「産後白書」という本を出し、そこでパートナーシップのことについても多く触れています。男性にも読んでくださいとPRしているのですが、男性は読みますと言ってくれても、それについて夫婦で話し合っているカップルというのは本当に少ないんですよね。産後の子育ての担い手は、母親だけではなく、大人全員であるということや、そのような話し合いが出来ているというパートナーシップは、なかなかないようです。現在、20代や30代前半くらいの人たちから、少しずつ変わり始めていると感じていますが、女性が子育てのメインの担い手であるという思い込みを相対化するということが、一番解決せねばいけないことではないかと思います。
―求められていることが多く、そのため本当にやりたいことがあってもそれを押し込めなければならないという子育て中の女性が、沢山いらっしゃるなと感じます。そのような中で、新たにシングルマザーズシスターフットさんを立ち上げられた背景や、想いについて教えてください。
吉岡さん:もともと、マドレボニータでも「産後ケアバトン制度」というものを行っていました。これは、シングルマザーの方や、障がいを持つお子さんのお母さん、多胎児のお母さんといった、社会から孤立しやすいような状況の方には、受講料を全額補助するというサポートです。ですが、シングルマザーの方は、産後ケアバトン制度を使われる方全体の中で、1割程度、つまり少数派でした。私自身、シングルマザーの経験があるのでわかるのですが、赤ちゃんを連れて出かけても、周りのママさんは一緒にパパがいて、うちだけパパがいないといった状況でした。これを、そんなに気にしないという方もいらっしゃいますが、「うちにはパパがいない」と、余計に辛くなってしまう方もいらっしゃるというのが現実であり、シングルマザーだけが集まって、安心してセルフケア出来るような場が出来ればいいなとは、考えていました。ですが、シングルマザーだけを集めるというのは、距離も離れており、物理的に難しいものでした。そのような中、2020年にコロナショックが始まったばかりの頃、オンラインでシングルマザーだけの活動を始めようとなりました。コロナ禍がこんなに長引くとは思っていなかったこともあり、最初は単発で、3ヶ月くらいだけのつもりでした。一時的な緊急支援の形で始めたのですが、初めて一週間で、百件くらい申し込みが来たんです。それで、これはすごいニーズだなと思い、これはやめられない、続けなければならないと感じました。しかし、シングルマザーのニーズと、産前産後の女性のニーズは、似ているところもありますがだいぶ違っており、そのため、マドレボニータの一事業としてやるには、専門性が違いすぎました。もともとは、2020年にマドレボニータの中で始めたプロジェクトでしたが、切り離し、私自身が2020年の12月にマドレボニータを退いて、2021年の1月から、シングルマザーズシスターフッドを始めました。
―誰かの役に立ちたいというモチベーションの源泉や、そのために大事にしていることがありましたら、教えてください。
吉岡さん:私は、ヒトというのは、それぞれにその人らしい力があると、疑わずに信じています。力がある人とない人がいるのでななく、自分の力を発揮できるか発揮できないか、つまり、発揮できる環境にあるかないか、体が弱っていて発揮できないなどといった違いだけだと思っています。それを発揮できるための手伝いをするというのが、マドレボニータでやってきたことでもあり、現在行っていることでもありますが、それについては様々な法則が存在しています。それらを紐解いていく、見つけていくというのが好きで、シングルマザー向けの活動を始めてから2年ぐらいになるのですが、1年目に始めた時には全く気付かなかった新しい気づきが今でもあります。じゃあ次はこれが必要だなといったことが次々に見えてきます。実際にそれを行ったり、検証したい欲求が、モチベーションになっているなと思います。
―本日は貴重なご講演を、有難うございました!
10th Anniversary記念イベント ママボノ経験者トークセッションのレポートはこちら ▷
この記事は、ママボノ経験者の石川奈穂子さんに作成いただきました。